For Kids

開催レポート

自分でおかねを作って、作ったおかねで買い物をしてみる
一所懸命描いた紙幣、手放しても欲しい?いらない?
「価値」っていったいなんだろう?


ここから未来のアーティストが生まれるかも
子どもたちがアートに親しむプログラムを開催

ACKアートフェアの一環として、昨年に引き続き開催されたキッズプログラム。今年もアート好きの子どもたちが多く参加してくれました。集まったのは1、2日目は小学生、3日目は就学前の子どもたち。

プログラムの内容は表現型と鑑賞型ワークショップの二部構成からなり、参加者は2グループに分かれ、交代制で行われます。いずれの日程も表現型からスタートした組の子どもたちに、取材にご協力いただきました。

アーティストとものづくりをしたり、ガイドの案内でアートフェアの会場を回ったり。楽しかった3日間のレポートをお届けします。



テーマは「価値について考える」
自由にデザインして「ZERO」紙幣を作ろう

ワークショップ2日目の講師は、美術作家の谷澤紗和子さん。まずは自己紹介から。
「普段は切り紙や、男の子女の子らしいってなんだろうというジェンダーをテーマにした作品、人間が空想する力や人が感じる価値についての作品を作っています。
今日は価値について考えるということで、みんなで紙幣という紙のお金を作ってもらいます」

参加者は11人の小学生。3枚の長方形の紙に絵を描いたりハンコを押して、自由にデザインして紙幣を作るという課題です。紙の中央には大きな「0」の数字。自分で作った「ZERO」紙幣は隣に設けた「ZERO Shop」で使えて、買い物ができるというから楽しみです。

「アート=お金を払って買うものというバイアスがあるけれど、ものを作るおもしろさや観るおもしろさって、お金を介さずにできることがいっぱい。だからアートフェアの中でちょっと違うことをやりたいなと思っていました」と谷澤さん。



谷澤さん手作りの消しゴムハンコを押して
カラフル、キラキラ、すてきな紙幣のできあがり

テーブルのカラーペンや色えんぴつを使い、0の字をカラフルに彩って周りに模様をつけたり、ちょうどハロウィンの時期だったのでカボチャや魔女、月に黒猫のモチーフも。紙幣という型にとらわれず、みんなのびのびと描いてくれました。

用意された消しゴムハンコは谷澤さんの手作り。恐竜や星、リボンのほか、「零」「本物」「ホンモノ」なんてハンコもありました。絵がうまく描けなくても大丈夫、好きなハンコを組み合わせてどんどん押していけば、自分だけのデザインになります。

仕上げにホログラムのキラキラシールを貼って、すてきな紙幣がいっぱいできあがりました。



「ZERO Shop」でのお買い物、何を買おう?
せっかく作った紙幣を使うかどうか迷う子も

最後は自分たちの作った「ZERO」紙幣を持って「ZERO Shop」でのお買い物。
「ZERO Shop」には、谷澤さんの切り紙作品や、前日の副産物産店のワークショップで子どもたちが作ったオブジェが並んでいました。切り紙のモチーフはネコやキツネ、恐竜、ダイヤモンドなど、素材は昨年のACKのパンフレットを使用しています。

それぞれに1ZERO、2ZEROの値札が付いていて、購入できるのは1つだけ。2ZEROの商品が欲しいけど、せっかく作った紙幣も持ち帰りたくて迷ったり。紙幣を払ったけど後から惜しくなり、急いでもう一枚作って交換してもらった女の子もありました。

付き添いのお父さんお母さんは、我が子が描いた作品を持って帰りたいし、買うなら谷澤さんの作品が欲しい。でも、同じ子どもが作ったオブジェが意外な人気だったのは興味深いところ。レコードのオブジェを買った男の子も「2ZEROで高かったけど、自分も一所懸命描いて作ったから」と満足そうでした。



ワークショップを終えて
講師:谷澤紗和子さん

「ZERO Shopでは自分が作ったおかねじゃないと交換してもらえない、裏を返すとお金があっても手に入らないものがある。自分の作った価値をお金を介さずに別のものと交換するというのも、自然に行われていることなんですが、それを可視化するワークショップでもあったかな。子どもたちにはちょっと難しかったけれど、大きくなった時に思い出してもらえたらいいと思います。

お金って、これに価値があると共通認識を持っている不思議なもの。
便利なんだけれどないことによって苦しめられたり、なければ不幸だと思ってしまうのはなぜだろう。それはあったほうがいいのかもしれないけれど、でもなぜだろうと思う。
このワークショップでの体験で、固まっていた感覚がゆるゆるになって欲しいと思っています。

「ZERO Shop」での買い物を見ていたら、みんな自分が作ったものを手放して交換していいか迷っていましたね。あと親御さんの欲しいものを買ってあげるみたいな子がいたり。でも子どもとしては子どもが作ったものに人気があったり、そのギャップも垣間見えました。広報の文章に『価値は何に宿るのか』みたいなことを書かせてもらったのですが、まさにいろんな価値の宿りかたが見えてきて、可視化されたのが良かったです。

この形式のワークショップは今回初めてでしたが、またやってみたいですね。とても可能性があるなと感じました。」



谷澤紗和子
西洋男性中心主義的な美術史において、周縁化されてきた「切り紙」という媒体の持つ批評的な可能性や、生と死、愛、痛みといった生(性)の根源的な領域への想像や妄想をテーマに制作している美術作家。主な展覧会に「VOCA展2022現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」(上野の森美術館/東京)、「東アジア文化都市 2017京都ーアジア回廊 現代美術展」(二条城/京都)などがあります。

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